2008年12月18日木曜日

明日死んでもいい

 山ほどある仕事を放り投げて、定時帰宅。ようやく自宅に辿り着いたのは6時25分頃。



 まず見た局面がこの局面。

 これ、角交換になったら後手の勝ちじゃないの?というのがアマ6級の一目見の感想。
 衛星放送見ていた親父が「逆転したかも」 私はそれまでの流れを知らなかったので、何がどうだったのかわからないが、羽生先生がずっと良かったのね?
 で、結局どっちが勝ちかわからないような(きっと放送の間も二転くらいはしていたような)局面が続いたが、放送最後の▲1一角成を指した時の羽生名人の手は明らかに震えていた。

 羽生フル(羽生震えの略)が出たから、きっと羽生が勝ちだね。と親父と納得し、慌ててインターネット観戦へ。 しかし…… 予想していたとおり全然つながらない!!天下の読売新聞様だから、きっとサーバを猛烈に増強して何とかしてくれると思ったのだが(泣)。





 ようやくつながったのは7時35分くらい。







 並べた。




…………









 すごい!本当にすごい!!!

 天才2人が全知全能+執念をかけて戦うとこういうすごい棋譜ができるのだなあ。




 もし世の中のすべてが将棋なら、第4局と第7局見ただけで、もう明日死んでも思い残すことはない!!!
 まあ、実際は将棋以外もあるので、もう少し生きていたいが(笑)。


 ちなみに2人ともかなりミスをしていると思うのだが、だからこそ「人生を賭けた勝負」的な迫力が伝わってくるのだ。名局とはきれいな棋譜ではないのだと改めて実感した。
 それにしても

こんな手や

こんな手で勝つんですね。
特にこの△1四歩は感動を超えて空恐ろしいものを感じる。


 渡辺竜王は歴史に残る天才だと証明した今回の竜王戦だった。



【教訓】天才はわれわれ凡人の想像のはるか上をゆく。そんな瞬間を目撃できた私は幸せだ。
 なんだか、明日からがんばって生きていこうという気になりました。

2008年12月17日水曜日

至福のとき

 ひげめがねは現在大変忙しく、初代永世竜王のかかったこんな大勝負をじっくり見ている暇がない(涙)。
 とりあえず今棋譜だけ並べてみた。
 前局に続き後手急戦矢倉とは……いい意味で驚愕。まあ、勢い重視の渡辺竜王としては当然の作戦なのかもしれないが。
 これはもうどちらかが良くなっているのですか?せっかく衛星の解説が藤井九段なのに、しっかり解説を聞けないのが残念だ。
 なんとなくの感想だけど、羽生名人がムキになって押さえ込みにいっているような気がする。自然体の羽生名人が必要以上の力を出すとどうなるのか…普通は力みはマイナス要因だが、ひょっとしたらスーパーハブヨシハルになるかもしれない。
 天才が、われわれ凡人の想像を超えた何かをしてくれるのではないか、と考える瞬間が本当に至福のときです。
 あとは食べるときが至福のとき。 もぐもぐ。
http://kifulog.shogi.or.jp/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2008/12/17/20081217gogooyatsu.jpg

2008年12月12日金曜日

衝撃の度合いがわからないという屈辱

 先日行われたA級順位戦、谷川九段-三浦八段戦。
 図から△4二金と、と金を払えば後手勝利だった……のだが、三浦八段も谷川九段も、記録の牧野三段も全く気づかず。 あとでこの手を指摘された瞬間、3人が3人とも
 シ─('ェ')─ン…
 後、
 ポヵ──(*゚ρ゚)──ン...
 となったそうである。この辺のレポートは、名人戦棋譜速報屈指の名観戦記と言えよう。
 それにしても、この手がなぜ読めなかったのかよく分からない。キモは馬筋をずらすと言うことだから、そんなに難しい手ではない。
 詰み筋も
 金と銀の打ち方の順番を間違えなければ、何とかなりそうな気がする。 この詰み筋がなぜトップ棋士でもわからないほど難しいのか、それを理解することの方が、弱小ひげめがねにはよほど難しそうだ。
【今日の教訓】同じ空間にいると、波長が合うことがあって、他の考えが浮かばないことがあるのかも。気分転換にローソンに行って缶コーヒー買うのも大切なことだ(自分のサボタージュ擁護?)。

2008年12月11日木曜日

99%の確率がついに50%に

 竜王戦第6局は第5局につづき渡辺竜王の完勝。 後手急戦矢倉も、△3一玉という手も、正確にとがめられたらあっさり負けてもおかしくないような指し方だ。まして相手は羽生名人だし。しかし、第4局以降、渡辺竜王のこういった積極性がしっかり勝ちに結びついているところに注目したい。
 このブログを始めたときは、羽生永世七冠誕生の確率99%、と書いたが、それがいよいよ第七局のガチンコ1番勝負となった。本来ならば追いついてきた利があるのだが、なんと言っても羽生名人である。どちらが勝つかは五分五分としか言えないが、ついに99%の確率が50%にまでなった。
 まあ、それにしても本当の意味で歴史的な竜王戦となった。第7局は1週間後なので、いろいろ書かずに1週間楽しみにゆっくり待とう。
 渡辺ー羽生戦がしっかり七局見られる幸せを、感じながら。

2008年12月9日火曜日

荒唐無稽な推論を展開してみる。

 わたくし、ひげめがねが将棋観戦にはまったきっかけは、河口俊彦七段の『大山康晴の晩節』であった。その中で大山-中原の名人戦(中原名人誕生となった期である)が詳細に書かれている。その名人戦第2局が大変印象的、感動的であった。 ここで大山名人一世一代の妙手が出る。△8一玉!
 普通はハナから捨ててしまう手であるが、これが絶妙の手で後手玉に寄りがないというのだから驚く。私程度の棋力では、これでなぜ後手勝ちなのか分からないくらいだ。そのことより重要なのは、大山名人は10手以上前から、この△8一玉が決め手になると読んでいたということだ。

 この局面から、 玉引きが決め手になると読んでいたと、河口先生は考察している。 私はプロの読みの深さ、膨大さにいたく感動し、ほぼ20年近く指しも見もしなかった将棋に、はまっていくことになるのである。


さて、この名人戦から40年近い時が過ぎて今期の竜王戦第5局。

 ▲3五歩がすばらしい中合いで 竜王が勝ちを決めた。 竜王は自身のブログで「▲3五歩があったのは幸運でした。」と書いている。つまり上述の大山名人とは異なり、たまたまここで妙手が落ちていた、ということになる。


  しかしですね、私はこの言葉に非常に疑問を感じているのですよ。

 渡辺竜王の将棋にはあまりにこういう「すごい手が落ちている」ということが多すぎるのだ。今期の竜王戦第4局は、本ブログにも再三書いているが、絶体絶命の局面を打ち歩詰めで逃れるという曲芸的なことをやってのけた。2期前の第2局の△7九角なんて、天から降ってきたとしか思えない寄せであった。ひげめがねなんぞは7九角に対し、「コンピュータ将棋のまねか?(コンピュータは負けとわかると何でも王手ラッシュをしてくることがある)」と思ったほどである。本当に渡辺竜王が脳みそ振り絞って考えたと思えるのは前期の第6局、残り時間30分を全部使い切って指した▲9八飛で、これには心の底から感動した。しかし、この手にしても、竜王は「偶然指した手が良かった」的なニュアンスでブログに書いている。
 これはいくらなんでもおかしい。
 そこで、あえてこういう推論を提示してみる。
「渡辺竜王は偶然を装って、実は本気勝負のときはすべて読みきっているのではないか」と!
 そう考えれば、竜王戦の戦いぶりにも説明がつく。渡辺竜王が雄弁なのも、大して読んでいないように見せかけておいて実は勝負の駆け引きに使っていると考えれば、竜王戦での驚異的な強さにも納得がいく。

 実はこう考えるのにはわけがある。羽生名人が大山十五世名人についてこのように語っているのだ。「読んでいるというより眺めているようにしか見えなかった。でも指は急所にきた」(要約ですが)。 ということは、実は大山名人は読みよりも大局観がずば抜けて優れていただけかも知れない、とも思えるのだ。ひげめがねがあんなに感動した△8一玉は、実はその場で見つけた手だったかもしれない! 大山十五世名人は自分の読みに関しては寡黙だったようである。ただ、あまりに強かったから、「そんなところまで読んでいるんだ!」と棋士たちに思わせることができたのではないか?
 逆に考えれば「渡辺竜王=実は勝負どころで羽生先生よりずっと深い読み=それをカモフラージュするためのブログ」という構図も成り立つのではないか?
 何にせよ、明日から竜王戦第6局。理性的に考えれば羽生のりだが、感情的には……。果たしてどうなるか?

【今日の結論】 荒唐無稽なことを考えながら一人心の中でほくそ笑んでいる瞬間が、実は最も快い時間だったりする。

2008年12月8日月曜日

予測を超えた世界

 10日から竜王戦第6局。今までの経験則から言うと、第6局は羽生名人が勝つ確率が70%以上だと思う。先手番であること。ここ一番、特に何かがかかっている(今回の場合は永世七冠)勝負には異様に強いこと。おそらくここで決めたいがために、全力で叩き潰しにくるだろうこと。考えれば考えるほど羽生永世七冠が新潟県で達成されると思われる。

 しかし、今回の相手が渡辺竜王だからこそ、とても期待してしまっている自分がいる。今までの常識を覆すとすれば、渡辺竜王しかいない。予測を超える成果を出せるのは今のところ渡辺竜王しかいないのだ。若手のエース、しかもこれだけ運の強いエースが出てきて、それでもダメなら羽生名人の天下はあと15年は続くだろう。それはそれでおもしろいことなのだが、やはりマンネリより変革の方が楽しい。ドキドキする。アドレナリンが出る。頑張れオバマ!CHANGE & YES,WE CAN!(←誰の応援?)
 とにかく渡辺-羽生戦をできるだけ長く見ていたいので、完全に渡辺竜王応援団として次局は臨みたい(というより第3局からずっと渡辺竜王応援団なのだが)。

しびれる。


 たった6手目の局面。
 これで佐藤棋王は指せると思っているだろうし、郷田九段は「こんなので後手が良くなるはずがない」と思っているだろう。お互いの意地と大局観のぶつかり合い。この局面を見ただけで本当にしびれる。勝負の世界が素敵だと思える瞬間だ。
 将棋もコミュニケーションですね。

2008年12月7日日曜日

最近の千葉女流三段

 将棋が本当に粘り強くなりましたね。 今日の女流最強戦。清水女流王将に逆転勝ち!!
http://www.daiwashogi.net/
 ここ1年くらいやや音沙汰なしでしたが、すっかり粘り強い、とか、手厚い、という将棋が板についた気がします。
 パートナー(手厚い手が好きな千葉六段)の影響で人生が好転した良い例です。ひげめがねも早く結婚せねば……。

負け犬の遠吠えをする人、しない人

 昨日お昼休みに「囲碁将棋ジャーナル」を見たら、米長日本将棋連盟会長とLPSA中井会長が一緒にテレビ出演していて、非常に驚いた。 この2人は兄妹弟子ながら女流棋士会分裂の影響で犬猿の仲ということになっている。というか、間違いなく仲は悪い。その辺の経緯は「勝手に将棋トピックス」というページに詳しい。
http://d.hatena.ne.jp/mozuyama/20061125(この日から半年ほど記事を追っていただければ、ほとんどすべての経緯がわかります。興味も時間もある方はどうぞ。)
 米長会長は良くも悪くも肝が据わっているのでいいが、中井さんは一緒の出演をよくぞ引き受けたものだ。実際、中井さんは非常に緊張していて、見ていてかわいそうに感じるほどだった。
 私も人間関係に失敗し、部署移動となったわけであるが、もしどうしても人前で一緒に仕事をしなければならないとなったらどうなるのだろうか。おそらくこちらは悟られないように平常を装うだろう。それがうまくいくかどうかといえば、多分うまくいかないだろうが(泣)。
 それにしても私の場合は、現在のところすっかり負け犬な気分になっていて、人生に対するモチベーションが上がらない。「人生は勝敗ではない」「ひげめがねは負けてない」とよく励まされる。そう言っていただけることには感謝の念に堪えないのだが、そう言われれば言われるほど、敗北感が強まる(笑)。皆様のお言葉は人生の上では真実だろうし、理性的な方の自分は実際そう思うのだが、感情面の自分がそれを納得できないのだ。 回復するまでにはまだまだ時間がかかるだろうし、何かきっかけが必要なのだろう。とりあえず、それまでは待って耐えるしかないのだろうし、待って耐える時間こそが人間力を高めると信じて過ごす毎日である。 昨日、中井さんを見て、もう少し何とかしなければと、ちょっと焦っているひげめがねであった。

2008年12月6日土曜日

天才は天から与えられたチャンスの前髪をつかむ

 一昨日、昨日と行われた竜王戦第5局は渡辺竜王の圧勝といっていいだろう。先手矢倉から攻めて攻めて、飛車を見捨てる猛攻で勝った。もちろん羽生相手であるから難しいところはいくつもあったのだが、勝ち方としては王道である。少なくとも第4局で一番入れたことによって、精神的には完全に息を吹き返したと見ていいだろう。

 先週の竜王戦第4局、私は既に20回以上並べた。並べても並べても感動がある、すばらしい将棋であった。ここまで、第4局のことを書いてきたが、中終盤、特に終盤は、解説の仕様もないほどポイントが多い上に難解すぎて、どうにも書きようがない。ということで今回は図面は載せず文書だけにする。それにしても本当によく渡辺竜王の王様はつかまらなかったものだ。実際、渡辺竜王は自身のブログでも何度も負けを覚悟した旨書いているし、竜王戦中継の中にも「秒に読まれ、一瞬ガグっとうなだれたような仕草」をしたとの記述がある。
 今回の一局で、渡辺竜王は天才だ、とつくづく思わされた。ここで言う天才とは、「他の人が決して持ち合わせない、特殊な能力を持った人」である。渡辺竜王の将棋というのは非常にオーソドックスである。奇をてらうようなことはあまりしない。かといって、谷川九段の「光速の寄せ」、羽生名人の「羽生マジック」といわれるような驚くような手が出てくるわけでもない。順位戦など見ていると、はっきり言って強いのか弱いのかよく分からないというくらいである。しかし、渡辺竜王は、竜王戦という将棋界最大の舞台で、なぜか奇跡的な勝ち方をする。前々期の竜王戦第3局では、奇跡のような詰み筋が生まれて逆転。防衛につながった。前期竜王戦の第6局では0手で香車を取らせるという、将棋の常識では考えられないような手を見つけ出し、防衛を決めた。もちろんそういった手を指せるということが強いということなのだが、それにしてもそういう手が転がっていて、それを見つける嗅覚があるところが天才なのだ。今回もほとんど詰みなのに、玉がのらりくらりと逃げ、最後は「打ち歩詰め」で逃れた。
 今までにいなかったタイプの天才だ。谷川、羽生両者の将棋は、常人の技ではないけれでも、「奇跡」ではない。谷川は普通の棋士が考えないところから寄せの構図を描き実現させる。だから皆驚くけれども、局面が進めば「なるほどすごい」と唸らされるすごさだ。羽生は驚くような逆転勝ちをするけれでも、相手が羽生に圧倒されて転ぶことが多い。それに、これだけ強いのは「奇跡」とは違う。それに対し、渡辺の場合は本当に奇跡的な勝ち筋が、まるで天から降ってきたかのように現れる。詰みそうなところからぎりぎりの筋で免れる。とても詰みそうもないところから、詰み筋が出現する。将棋を並べてこれだけ私が感動するのは、渡辺の将棋だけだ。奇跡的な筋が出てくることで、将棋の奥深さを感じさせてくれる。しかも、それを本人が意図していなさそうに見えるところに興味が持てる。まったく偶然にこのような奇跡的なことが起きているように思わされるが、実は全て本人が画策しているのではないか、それくらい強いのではないか、そして、それを悟られないようにブログに自分の心情らしきものを公表しているのではないか、そう勘ぐりたくなるようなことすらある。まあ、さすがにそのようなことはないだろうと思うのだが、そのような可能性があると思わせるところに、渡辺竜王の魅力があるのではないだろうか。
 第4局の投了の瞬間の控え室の様子を、中継より引用する。

控え室は「すごい」と口々に声が上がる。報道陣が驚きながら対局室に向かう。「すごい勝負でしたね」の声。

人間は、本当に驚いたときは「すごい」という言葉しか出てこないのだ。すごい対局であった。

【教訓】天才には、天から啓示のような何かが降ってきてそれをつかむことができるが、凡人には一生つかめないし理解できない。でも「天才ってすごい!」と感動することができる。それってすばらしいじゃない!

2008年11月29日土曜日

 あきら竜王は一体何を考えていたのか忖度してみる その2

 羽生名人は銀をよく使う(動かす)ことが、とりわけ最近目立つようになった。
http://app.blog.livedoor.jp/shogitygoo/tb.cgi/51422322
 今回の将棋でもとにかくちょこまかと銀が動く。


 図の太字の銀がよく動いた右銀。ここまでの総手数は41手。羽生名人は先手で21手指しているのだが、そのうちの6手をこの銀に使っている。 しかも、この太字の位置は、本来であれば4手で来られる。つまり2手損。その前に角の交換で1手損をしているので、ここまで合計3手も手を損している。 渡辺竜王としては、この手損に付け込みたい。渡辺竜王側から見れば手得なのだから、その分、早めに戦闘状態を作ろうと考えている。
 そういうことを踏まえて図の局面。 ここで渡辺竜王は△8八歩と打った。 1歩損をして、その上わざわざ羽生名人の王様をお城の中に入れてあげる手だ。 そもそもにおいて、手損をしているから羽生名人の王様はお城に入っていなかったという部分もある。つまり、「あなたの考え方は正しいです。1歩と1手差し上げますからどうぞお城にお入りください。」 というふうに渡辺竜王が妥協した手ともいえるし、相手の言い分を通しながらも最善手を探そうという意志の表れともいえる。
 でも、これは実に悔しい。私が後手だったら絶対に指せない(まあ私は6級ですが)。
 私はこの手に竜王をこの対局にかける意気込みを感じた。つまり、自分のスタイルを崩しても(本来渡辺竜王は王様の守りを固くするのが好きなタイプ)、妥協をしても、この対局のために最善手を突き詰めようとする姿である。渡辺竜王がこの対局で重視したものは、おそらく「駒の勢い」と「攻める姿勢」なのだ。その信念を貫こうとしたのだとファンタジーひげめがねは考える次第である。

【今回の教訓】相手<自分。まずは自分を信じよう。自信がないときは相手の読みをはずそうとしてしまうが、そういうときほど意気込みと信念が必要。

【ひげめがねの教訓】「損して得とれ」は天才だから通用するもので、凡人には通用しない。大体最初に借金をすると、そこから抜け出せないものである。手損、駒損は避けましょう。

あきら竜王は一体何を考えていたのか忖度してみる その1

 ブログの一番難しいところは「誰にみてもらうために書くか」ということなのだと思います。人間誰しも、ちょっとマニアックな、普通の人にはわからないような事象について書きたいと思うのではないでしょうか?しかし、今みたいにブログを始めたばかりで誰が読むのかわからないような状況では、いろいろ試行錯誤してみる必要があるようです。 というわけで、今回は将棋の指し手に棋士の気持ちがどのように表れるのか、将棋を知らない人でもわかるように書いてみたいと思います。もちろん渡辺竜王の気持ちは「ファンタジーひげめがね」が勝手に推測したものですのであしからず。

 なお、これからしばらく題材にする「竜王戦第4局」は
 最近やや不調の渡辺明竜王

 相変わらず絶好調の羽生善治名人
が挑戦するという構図です。
 3局終わった時点で、羽生名人の3連勝。この一局で羽生名人が勝利すれば、羽生名人が竜王位獲得、史上初の永世七冠達成(説明は省きますがとにかくすごいことなのです)となります。
 この対局については以下のリンクに詳しいですので、多少興味をもたれた方はどうぞ。特に渡辺竜王はブログを頻繁に更新しており、非常に率直に状況や気持ちをつづっておられますので、一見の価値があると思います。

竜王戦のページ
http://live.shogi.or.jp/ryuou/

竜王戦第4局棋譜再現のページ
http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu/081126.html

渡辺明ブログ
http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/



 例えば上の図面。普通に文字が読めるのが先手(羽生名人)の駒、それに対して文字が逆さになっているのが後手(渡辺竜王)の駒です。
 先手の駒は王様の周りに密集しており、しかも、下から3段目までに多くあります。
 それに対し、後手の駒はいろいろなところにばらばらにあり、しかも自分の陣地より上のほう(図から言えば下のほう)に偏っています。 これは後手の方が「攻めるぞ」と見せかけているのですね。どちらがいいとはいえないのですが、勝負の上で追い込まれた渡辺竜王(0勝3敗)が積極的な姿勢を見せていることが伺えます。
 普通、人間は追い込まれるとネガティブな気持ちになります。どちらかというと主体的な気持ちにならず、相手にあわせたいと思うのではないでしょうか。また、ネガティブなときはいいアイデアも浮かびづらいと思います。しかし、渡辺竜王は積極的な、しかも非常に斬新な構えを作りました。追い込まれたときほど積極的にしてみる、というのは勝負術の1つです。それにしても、このような大きな勝負で、しかも3連敗し、その内容も良くない中での決断です。渡辺竜王は将棋ファンを大事にしますので、余計に「今度こそはいい将棋を見せたい」と思っているはずです。そんな中で、簡単に負けてしまってもおかしくないような構えをつくったのです。
 ひげめがねは、渡辺竜王に精神的な強さ、一流としての自負を感じずにはいられませんでした。

【今回の教訓】
・追い込まれたときほど、その人の精神力、もっといえば人間力が発揮される。
・逆境のときほど積極的にしてみるのがよさそうだ。

【そして、ひげめがねの教訓】
・逆境のときに積極的になれない凡人は諦めてみる。それにより新しい道も開けることもあるかも。

 諦めたら試合終了なのですが、凡人の人生は何度諦めても次の試合があるものです。


 ちなみにトラックバックってどうやって承認してもらうのですか?
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/62feef3135d68f246488bb53d4daabeb/57

2008年11月28日金曜日

手損、総力戦、そして紙一重の差

 竜王戦第4局は、相がかりのでだしから、

 先手羽生名人より角交換、1手損
 銀を3筋から5筋にひきつけて2手損

ということで都合先手の3手損。
 しかし、手損をしても引き換えに守りを固める(と同時に相手玉が薄くなるのを見越している)という効果で形勢はいい勝負なのですね。




 渡辺竜王の覚悟を感じたのは△8八歩の局面。
 8八に入城せず7九に玉がいるのは、手損をしたからとも考えられる。ということは手損をして銀をひきつけてきた羽生名人の構想を、渡辺竜王が認めたことになる。
 これは悔しい。私が後手だったら絶対に指せない(まあ私は6級ですが)。
 しかし、本来の玉を固める竜王スタイルではなく、バルタン星人(すばらしいネーミングセンス)の構えから攻めを重視したところから、今回はいつもと違うと感じさせるものがあった。駒の勢いを重視したということが結果的に功を奏したように思われる。




 そして、私が最後にリアルタイムで見た局面が第2図。ここで△4三玉!の顔面受け。 「勝ったら勝着、負けたら敗着」という手である。しかし、総力戦で全部の駒を使って攻め、受ける、というバルタン星人戦略からいうと、理にかなった手である。おそらく竜王は、勝つには入玉しかない、と感覚的に悟っていたのではなかろうか。

 第3図。ここで羽生名人は最後の歩を使った。この歩は、△8八歩と打ってもらって得た歩である。 ということは、「手損で一歩稼いだが、それでも一歩足りなかった」というくらい紙一重の差だったということだろう。 久々に「リアルタイムでなく後で見た将棋」で興奮させていただきました。

一流の証明&安西先生

 昨日の将棋竜王戦は衝撃的であった。
 あきら魔王の玉がほとんどつかまりそうな場面から、王様が単騎でかけずりはいずり逃げ回り、綱渡りの状態から逃げ切ってしまった。多くのプロ棋士が、羽生竜王、永世七冠誕生と思っていただけに(あきら魔王も負けと観念したらしい)観戦した人たちは余韻に浸れたのではないか(ちなみに私はそのとき会議中でした涙)。
 しかも、羽生勝利目前→逆転と見られていた形勢も、実はずっと難しく、どちらが勝ってもおかしくないような状況が続いていたようだ。最後は本当に奇跡的にあきら玉はつかまらなかったのだが、それも羽生氏がつかまえ損ねた(ミスをした)のではなかったことが判明。あきら魔王は実力だけでなく運をも兼ね備えた、真に一流の勝負師であることを証明したと思う。
 これで、1勝3敗。ここから逆転防衛できるとは到底思えないが、とにもかくにも1勝返したのは今後の彼の将棋人生にプラスに働くに違いない。
 ところで、あきら魔王は19歳にて、できちゃった婚というひげにとっては衝撃的なことがあったのだが、その嫁さんのブログがすばらしかった。

http://inaw.exblog.jp/7687036/
絵は嫁さんが描いたのだろうか?

 ひげはあきらめっぱなしなので試合終了しっぱなしだが、生きている限り何度もいろいろなことに挑戦できる。ホントに試合終了するのは、生きるのをあきらめたときなのでしょうね。

絶対に負けられない戦いがここにある 2008年11月23日

 諸事情あり、ひげめがねは来月より部署移動となります。
 人生は勝ち負けではないとかいう人がいて、その言葉はありがたいのですが、事実上の敗北であります。
 22歳より4年間教師をしていましたが、その時代に中学校の担任をおろされて以来この10年、ひげの人生は敗北に次ぐ敗北であります。人間として致命的な欠陥があるのではないかと思うのですが、それが何なのか理解できません。
 それをこれからの人生の中で見つけていくのが、ひげの使命なのかもしれません。

 というようなことが書けるようになったのは回復したからで、8~9月は、本気で出家しようと考えたのですが、「お前のような掃除とかできない人間は出家などできない」と痛い事実を親に言われ、思いとどまったというくらいです。ま、出家しなくても人生は修行ですけどね。
 現在は、だいぶポジティブになってきたのでご心配なく。

 さて、今日の日記のタイトルは、テレビ朝日のアナウンサーが日本代表の試合でよく使うフレーズなのだが、負けっぱなしのひげには信じられない (笑)。ちなみに今までの日本代表の中で「絶対に負けられない戦い」というのはどのくらいあったのだろうか?負けてはいけない試合、負けて本当にショックだった試合というのは、あのドーハの悲劇以来ないのではないか、とひげは個人的に思っている。何でもかんでも勝ち負けに結び付けようというのは、マスコミとひげの共通する悪い癖だ。
 では、本当に負けられない勝負というのはどういうものなのだろう。
 身近にあったことで私がほとんど唯一思いつくのは、将棋の瀬川晶司さんが受験したプロ試験。人生を賭けた勝負を生で見られた(第1局は紀伊国屋ホールで行われたのです)のはひげにとって貴重な財産だ。なぜ負けられない勝負だったのかは、彼の著書に詳しい。
『泣き虫しょったんの奇跡』
 タイトルで買う気が失せるが(笑)。


 で、おそらくそれに近い戦いが今週ある。
将棋竜王戦
http://www.yomiuri.co.jp/igoshougi/ryuoh/
 相変わらず羽生センセーは強くて簡単に3連勝。
 あきら魔王は絶不調。前局終了後は、誰にも知られないようにひっそりと平泉からその夜に帰京したとの由。その事実からも精神的に相当ショックを受けていることがわかる。
 もうタイトルの行方は99%決まったようなものであるが、第4局はあきら魔王にとって絶対に負けられない戦いである。
 ちなみに羽生センセーにも18年前、同じような状況(3連敗)があった。しかし、第4局は苦しみに苦しみぬいて当時の谷川竜王から勝ちをもぎ取った。結局1勝4敗で羽生氏はタイトルを奪取されたのだが、「その1勝が自分にとって大きかった」というようなことは羽生センセーはインタビューでおっしゃっていた。というわけで、逆の立場の羽生センセーはあきら魔王を叩き潰すために、全力で勝ちに来るだろう。

 こういう逆境の中で、天才はこの状況をいかに克服しようとするのか?これは一見の価値がある。
 もしあっさりあきら魔王が負けたら、それは天才ではなかったということで。