2008年12月18日木曜日

明日死んでもいい

 山ほどある仕事を放り投げて、定時帰宅。ようやく自宅に辿り着いたのは6時25分頃。



 まず見た局面がこの局面。

 これ、角交換になったら後手の勝ちじゃないの?というのがアマ6級の一目見の感想。
 衛星放送見ていた親父が「逆転したかも」 私はそれまでの流れを知らなかったので、何がどうだったのかわからないが、羽生先生がずっと良かったのね?
 で、結局どっちが勝ちかわからないような(きっと放送の間も二転くらいはしていたような)局面が続いたが、放送最後の▲1一角成を指した時の羽生名人の手は明らかに震えていた。

 羽生フル(羽生震えの略)が出たから、きっと羽生が勝ちだね。と親父と納得し、慌ててインターネット観戦へ。 しかし…… 予想していたとおり全然つながらない!!天下の読売新聞様だから、きっとサーバを猛烈に増強して何とかしてくれると思ったのだが(泣)。





 ようやくつながったのは7時35分くらい。







 並べた。




…………









 すごい!本当にすごい!!!

 天才2人が全知全能+執念をかけて戦うとこういうすごい棋譜ができるのだなあ。




 もし世の中のすべてが将棋なら、第4局と第7局見ただけで、もう明日死んでも思い残すことはない!!!
 まあ、実際は将棋以外もあるので、もう少し生きていたいが(笑)。


 ちなみに2人ともかなりミスをしていると思うのだが、だからこそ「人生を賭けた勝負」的な迫力が伝わってくるのだ。名局とはきれいな棋譜ではないのだと改めて実感した。
 それにしても

こんな手や

こんな手で勝つんですね。
特にこの△1四歩は感動を超えて空恐ろしいものを感じる。


 渡辺竜王は歴史に残る天才だと証明した今回の竜王戦だった。



【教訓】天才はわれわれ凡人の想像のはるか上をゆく。そんな瞬間を目撃できた私は幸せだ。
 なんだか、明日からがんばって生きていこうという気になりました。

2008年12月17日水曜日

至福のとき

 ひげめがねは現在大変忙しく、初代永世竜王のかかったこんな大勝負をじっくり見ている暇がない(涙)。
 とりあえず今棋譜だけ並べてみた。
 前局に続き後手急戦矢倉とは……いい意味で驚愕。まあ、勢い重視の渡辺竜王としては当然の作戦なのかもしれないが。
 これはもうどちらかが良くなっているのですか?せっかく衛星の解説が藤井九段なのに、しっかり解説を聞けないのが残念だ。
 なんとなくの感想だけど、羽生名人がムキになって押さえ込みにいっているような気がする。自然体の羽生名人が必要以上の力を出すとどうなるのか…普通は力みはマイナス要因だが、ひょっとしたらスーパーハブヨシハルになるかもしれない。
 天才が、われわれ凡人の想像を超えた何かをしてくれるのではないか、と考える瞬間が本当に至福のときです。
 あとは食べるときが至福のとき。 もぐもぐ。
http://kifulog.shogi.or.jp/.shared/image.html?/photos/uncategorized/2008/12/17/20081217gogooyatsu.jpg

2008年12月12日金曜日

衝撃の度合いがわからないという屈辱

 先日行われたA級順位戦、谷川九段-三浦八段戦。
 図から△4二金と、と金を払えば後手勝利だった……のだが、三浦八段も谷川九段も、記録の牧野三段も全く気づかず。 あとでこの手を指摘された瞬間、3人が3人とも
 シ─('ェ')─ン…
 後、
 ポヵ──(*゚ρ゚)──ン...
 となったそうである。この辺のレポートは、名人戦棋譜速報屈指の名観戦記と言えよう。
 それにしても、この手がなぜ読めなかったのかよく分からない。キモは馬筋をずらすと言うことだから、そんなに難しい手ではない。
 詰み筋も
 金と銀の打ち方の順番を間違えなければ、何とかなりそうな気がする。 この詰み筋がなぜトップ棋士でもわからないほど難しいのか、それを理解することの方が、弱小ひげめがねにはよほど難しそうだ。
【今日の教訓】同じ空間にいると、波長が合うことがあって、他の考えが浮かばないことがあるのかも。気分転換にローソンに行って缶コーヒー買うのも大切なことだ(自分のサボタージュ擁護?)。

2008年12月11日木曜日

99%の確率がついに50%に

 竜王戦第6局は第5局につづき渡辺竜王の完勝。 後手急戦矢倉も、△3一玉という手も、正確にとがめられたらあっさり負けてもおかしくないような指し方だ。まして相手は羽生名人だし。しかし、第4局以降、渡辺竜王のこういった積極性がしっかり勝ちに結びついているところに注目したい。
 このブログを始めたときは、羽生永世七冠誕生の確率99%、と書いたが、それがいよいよ第七局のガチンコ1番勝負となった。本来ならば追いついてきた利があるのだが、なんと言っても羽生名人である。どちらが勝つかは五分五分としか言えないが、ついに99%の確率が50%にまでなった。
 まあ、それにしても本当の意味で歴史的な竜王戦となった。第7局は1週間後なので、いろいろ書かずに1週間楽しみにゆっくり待とう。
 渡辺ー羽生戦がしっかり七局見られる幸せを、感じながら。

2008年12月9日火曜日

荒唐無稽な推論を展開してみる。

 わたくし、ひげめがねが将棋観戦にはまったきっかけは、河口俊彦七段の『大山康晴の晩節』であった。その中で大山-中原の名人戦(中原名人誕生となった期である)が詳細に書かれている。その名人戦第2局が大変印象的、感動的であった。 ここで大山名人一世一代の妙手が出る。△8一玉!
 普通はハナから捨ててしまう手であるが、これが絶妙の手で後手玉に寄りがないというのだから驚く。私程度の棋力では、これでなぜ後手勝ちなのか分からないくらいだ。そのことより重要なのは、大山名人は10手以上前から、この△8一玉が決め手になると読んでいたということだ。

 この局面から、 玉引きが決め手になると読んでいたと、河口先生は考察している。 私はプロの読みの深さ、膨大さにいたく感動し、ほぼ20年近く指しも見もしなかった将棋に、はまっていくことになるのである。


さて、この名人戦から40年近い時が過ぎて今期の竜王戦第5局。

 ▲3五歩がすばらしい中合いで 竜王が勝ちを決めた。 竜王は自身のブログで「▲3五歩があったのは幸運でした。」と書いている。つまり上述の大山名人とは異なり、たまたまここで妙手が落ちていた、ということになる。


  しかしですね、私はこの言葉に非常に疑問を感じているのですよ。

 渡辺竜王の将棋にはあまりにこういう「すごい手が落ちている」ということが多すぎるのだ。今期の竜王戦第4局は、本ブログにも再三書いているが、絶体絶命の局面を打ち歩詰めで逃れるという曲芸的なことをやってのけた。2期前の第2局の△7九角なんて、天から降ってきたとしか思えない寄せであった。ひげめがねなんぞは7九角に対し、「コンピュータ将棋のまねか?(コンピュータは負けとわかると何でも王手ラッシュをしてくることがある)」と思ったほどである。本当に渡辺竜王が脳みそ振り絞って考えたと思えるのは前期の第6局、残り時間30分を全部使い切って指した▲9八飛で、これには心の底から感動した。しかし、この手にしても、竜王は「偶然指した手が良かった」的なニュアンスでブログに書いている。
 これはいくらなんでもおかしい。
 そこで、あえてこういう推論を提示してみる。
「渡辺竜王は偶然を装って、実は本気勝負のときはすべて読みきっているのではないか」と!
 そう考えれば、竜王戦の戦いぶりにも説明がつく。渡辺竜王が雄弁なのも、大して読んでいないように見せかけておいて実は勝負の駆け引きに使っていると考えれば、竜王戦での驚異的な強さにも納得がいく。

 実はこう考えるのにはわけがある。羽生名人が大山十五世名人についてこのように語っているのだ。「読んでいるというより眺めているようにしか見えなかった。でも指は急所にきた」(要約ですが)。 ということは、実は大山名人は読みよりも大局観がずば抜けて優れていただけかも知れない、とも思えるのだ。ひげめがねがあんなに感動した△8一玉は、実はその場で見つけた手だったかもしれない! 大山十五世名人は自分の読みに関しては寡黙だったようである。ただ、あまりに強かったから、「そんなところまで読んでいるんだ!」と棋士たちに思わせることができたのではないか?
 逆に考えれば「渡辺竜王=実は勝負どころで羽生先生よりずっと深い読み=それをカモフラージュするためのブログ」という構図も成り立つのではないか?
 何にせよ、明日から竜王戦第6局。理性的に考えれば羽生のりだが、感情的には……。果たしてどうなるか?

【今日の結論】 荒唐無稽なことを考えながら一人心の中でほくそ笑んでいる瞬間が、実は最も快い時間だったりする。

2008年12月8日月曜日

予測を超えた世界

 10日から竜王戦第6局。今までの経験則から言うと、第6局は羽生名人が勝つ確率が70%以上だと思う。先手番であること。ここ一番、特に何かがかかっている(今回の場合は永世七冠)勝負には異様に強いこと。おそらくここで決めたいがために、全力で叩き潰しにくるだろうこと。考えれば考えるほど羽生永世七冠が新潟県で達成されると思われる。

 しかし、今回の相手が渡辺竜王だからこそ、とても期待してしまっている自分がいる。今までの常識を覆すとすれば、渡辺竜王しかいない。予測を超える成果を出せるのは今のところ渡辺竜王しかいないのだ。若手のエース、しかもこれだけ運の強いエースが出てきて、それでもダメなら羽生名人の天下はあと15年は続くだろう。それはそれでおもしろいことなのだが、やはりマンネリより変革の方が楽しい。ドキドキする。アドレナリンが出る。頑張れオバマ!CHANGE & YES,WE CAN!(←誰の応援?)
 とにかく渡辺-羽生戦をできるだけ長く見ていたいので、完全に渡辺竜王応援団として次局は臨みたい(というより第3局からずっと渡辺竜王応援団なのだが)。

しびれる。


 たった6手目の局面。
 これで佐藤棋王は指せると思っているだろうし、郷田九段は「こんなので後手が良くなるはずがない」と思っているだろう。お互いの意地と大局観のぶつかり合い。この局面を見ただけで本当にしびれる。勝負の世界が素敵だと思える瞬間だ。
 将棋もコミュニケーションですね。

2008年12月7日日曜日

最近の千葉女流三段

 将棋が本当に粘り強くなりましたね。 今日の女流最強戦。清水女流王将に逆転勝ち!!
http://www.daiwashogi.net/
 ここ1年くらいやや音沙汰なしでしたが、すっかり粘り強い、とか、手厚い、という将棋が板についた気がします。
 パートナー(手厚い手が好きな千葉六段)の影響で人生が好転した良い例です。ひげめがねも早く結婚せねば……。

負け犬の遠吠えをする人、しない人

 昨日お昼休みに「囲碁将棋ジャーナル」を見たら、米長日本将棋連盟会長とLPSA中井会長が一緒にテレビ出演していて、非常に驚いた。 この2人は兄妹弟子ながら女流棋士会分裂の影響で犬猿の仲ということになっている。というか、間違いなく仲は悪い。その辺の経緯は「勝手に将棋トピックス」というページに詳しい。
http://d.hatena.ne.jp/mozuyama/20061125(この日から半年ほど記事を追っていただければ、ほとんどすべての経緯がわかります。興味も時間もある方はどうぞ。)
 米長会長は良くも悪くも肝が据わっているのでいいが、中井さんは一緒の出演をよくぞ引き受けたものだ。実際、中井さんは非常に緊張していて、見ていてかわいそうに感じるほどだった。
 私も人間関係に失敗し、部署移動となったわけであるが、もしどうしても人前で一緒に仕事をしなければならないとなったらどうなるのだろうか。おそらくこちらは悟られないように平常を装うだろう。それがうまくいくかどうかといえば、多分うまくいかないだろうが(泣)。
 それにしても私の場合は、現在のところすっかり負け犬な気分になっていて、人生に対するモチベーションが上がらない。「人生は勝敗ではない」「ひげめがねは負けてない」とよく励まされる。そう言っていただけることには感謝の念に堪えないのだが、そう言われれば言われるほど、敗北感が強まる(笑)。皆様のお言葉は人生の上では真実だろうし、理性的な方の自分は実際そう思うのだが、感情面の自分がそれを納得できないのだ。 回復するまでにはまだまだ時間がかかるだろうし、何かきっかけが必要なのだろう。とりあえず、それまでは待って耐えるしかないのだろうし、待って耐える時間こそが人間力を高めると信じて過ごす毎日である。 昨日、中井さんを見て、もう少し何とかしなければと、ちょっと焦っているひげめがねであった。

2008年12月6日土曜日

天才は天から与えられたチャンスの前髪をつかむ

 一昨日、昨日と行われた竜王戦第5局は渡辺竜王の圧勝といっていいだろう。先手矢倉から攻めて攻めて、飛車を見捨てる猛攻で勝った。もちろん羽生相手であるから難しいところはいくつもあったのだが、勝ち方としては王道である。少なくとも第4局で一番入れたことによって、精神的には完全に息を吹き返したと見ていいだろう。

 先週の竜王戦第4局、私は既に20回以上並べた。並べても並べても感動がある、すばらしい将棋であった。ここまで、第4局のことを書いてきたが、中終盤、特に終盤は、解説の仕様もないほどポイントが多い上に難解すぎて、どうにも書きようがない。ということで今回は図面は載せず文書だけにする。それにしても本当によく渡辺竜王の王様はつかまらなかったものだ。実際、渡辺竜王は自身のブログでも何度も負けを覚悟した旨書いているし、竜王戦中継の中にも「秒に読まれ、一瞬ガグっとうなだれたような仕草」をしたとの記述がある。
 今回の一局で、渡辺竜王は天才だ、とつくづく思わされた。ここで言う天才とは、「他の人が決して持ち合わせない、特殊な能力を持った人」である。渡辺竜王の将棋というのは非常にオーソドックスである。奇をてらうようなことはあまりしない。かといって、谷川九段の「光速の寄せ」、羽生名人の「羽生マジック」といわれるような驚くような手が出てくるわけでもない。順位戦など見ていると、はっきり言って強いのか弱いのかよく分からないというくらいである。しかし、渡辺竜王は、竜王戦という将棋界最大の舞台で、なぜか奇跡的な勝ち方をする。前々期の竜王戦第3局では、奇跡のような詰み筋が生まれて逆転。防衛につながった。前期竜王戦の第6局では0手で香車を取らせるという、将棋の常識では考えられないような手を見つけ出し、防衛を決めた。もちろんそういった手を指せるということが強いということなのだが、それにしてもそういう手が転がっていて、それを見つける嗅覚があるところが天才なのだ。今回もほとんど詰みなのに、玉がのらりくらりと逃げ、最後は「打ち歩詰め」で逃れた。
 今までにいなかったタイプの天才だ。谷川、羽生両者の将棋は、常人の技ではないけれでも、「奇跡」ではない。谷川は普通の棋士が考えないところから寄せの構図を描き実現させる。だから皆驚くけれども、局面が進めば「なるほどすごい」と唸らされるすごさだ。羽生は驚くような逆転勝ちをするけれでも、相手が羽生に圧倒されて転ぶことが多い。それに、これだけ強いのは「奇跡」とは違う。それに対し、渡辺の場合は本当に奇跡的な勝ち筋が、まるで天から降ってきたかのように現れる。詰みそうなところからぎりぎりの筋で免れる。とても詰みそうもないところから、詰み筋が出現する。将棋を並べてこれだけ私が感動するのは、渡辺の将棋だけだ。奇跡的な筋が出てくることで、将棋の奥深さを感じさせてくれる。しかも、それを本人が意図していなさそうに見えるところに興味が持てる。まったく偶然にこのような奇跡的なことが起きているように思わされるが、実は全て本人が画策しているのではないか、それくらい強いのではないか、そして、それを悟られないようにブログに自分の心情らしきものを公表しているのではないか、そう勘ぐりたくなるようなことすらある。まあ、さすがにそのようなことはないだろうと思うのだが、そのような可能性があると思わせるところに、渡辺竜王の魅力があるのではないだろうか。
 第4局の投了の瞬間の控え室の様子を、中継より引用する。

控え室は「すごい」と口々に声が上がる。報道陣が驚きながら対局室に向かう。「すごい勝負でしたね」の声。

人間は、本当に驚いたときは「すごい」という言葉しか出てこないのだ。すごい対局であった。

【教訓】天才には、天から啓示のような何かが降ってきてそれをつかむことができるが、凡人には一生つかめないし理解できない。でも「天才ってすごい!」と感動することができる。それってすばらしいじゃない!