2008年11月29日土曜日

 あきら竜王は一体何を考えていたのか忖度してみる その2

 羽生名人は銀をよく使う(動かす)ことが、とりわけ最近目立つようになった。
http://app.blog.livedoor.jp/shogitygoo/tb.cgi/51422322
 今回の将棋でもとにかくちょこまかと銀が動く。


 図の太字の銀がよく動いた右銀。ここまでの総手数は41手。羽生名人は先手で21手指しているのだが、そのうちの6手をこの銀に使っている。 しかも、この太字の位置は、本来であれば4手で来られる。つまり2手損。その前に角の交換で1手損をしているので、ここまで合計3手も手を損している。 渡辺竜王としては、この手損に付け込みたい。渡辺竜王側から見れば手得なのだから、その分、早めに戦闘状態を作ろうと考えている。
 そういうことを踏まえて図の局面。 ここで渡辺竜王は△8八歩と打った。 1歩損をして、その上わざわざ羽生名人の王様をお城の中に入れてあげる手だ。 そもそもにおいて、手損をしているから羽生名人の王様はお城に入っていなかったという部分もある。つまり、「あなたの考え方は正しいです。1歩と1手差し上げますからどうぞお城にお入りください。」 というふうに渡辺竜王が妥協した手ともいえるし、相手の言い分を通しながらも最善手を探そうという意志の表れともいえる。
 でも、これは実に悔しい。私が後手だったら絶対に指せない(まあ私は6級ですが)。
 私はこの手に竜王をこの対局にかける意気込みを感じた。つまり、自分のスタイルを崩しても(本来渡辺竜王は王様の守りを固くするのが好きなタイプ)、妥協をしても、この対局のために最善手を突き詰めようとする姿である。渡辺竜王がこの対局で重視したものは、おそらく「駒の勢い」と「攻める姿勢」なのだ。その信念を貫こうとしたのだとファンタジーひげめがねは考える次第である。

【今回の教訓】相手<自分。まずは自分を信じよう。自信がないときは相手の読みをはずそうとしてしまうが、そういうときほど意気込みと信念が必要。

【ひげめがねの教訓】「損して得とれ」は天才だから通用するもので、凡人には通用しない。大体最初に借金をすると、そこから抜け出せないものである。手損、駒損は避けましょう。

あきら竜王は一体何を考えていたのか忖度してみる その1

 ブログの一番難しいところは「誰にみてもらうために書くか」ということなのだと思います。人間誰しも、ちょっとマニアックな、普通の人にはわからないような事象について書きたいと思うのではないでしょうか?しかし、今みたいにブログを始めたばかりで誰が読むのかわからないような状況では、いろいろ試行錯誤してみる必要があるようです。 というわけで、今回は将棋の指し手に棋士の気持ちがどのように表れるのか、将棋を知らない人でもわかるように書いてみたいと思います。もちろん渡辺竜王の気持ちは「ファンタジーひげめがね」が勝手に推測したものですのであしからず。

 なお、これからしばらく題材にする「竜王戦第4局」は
 最近やや不調の渡辺明竜王

 相変わらず絶好調の羽生善治名人
が挑戦するという構図です。
 3局終わった時点で、羽生名人の3連勝。この一局で羽生名人が勝利すれば、羽生名人が竜王位獲得、史上初の永世七冠達成(説明は省きますがとにかくすごいことなのです)となります。
 この対局については以下のリンクに詳しいですので、多少興味をもたれた方はどうぞ。特に渡辺竜王はブログを頻繁に更新しており、非常に率直に状況や気持ちをつづっておられますので、一見の価値があると思います。

竜王戦のページ
http://live.shogi.or.jp/ryuou/

竜王戦第4局棋譜再現のページ
http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu/081126.html

渡辺明ブログ
http://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/



 例えば上の図面。普通に文字が読めるのが先手(羽生名人)の駒、それに対して文字が逆さになっているのが後手(渡辺竜王)の駒です。
 先手の駒は王様の周りに密集しており、しかも、下から3段目までに多くあります。
 それに対し、後手の駒はいろいろなところにばらばらにあり、しかも自分の陣地より上のほう(図から言えば下のほう)に偏っています。 これは後手の方が「攻めるぞ」と見せかけているのですね。どちらがいいとはいえないのですが、勝負の上で追い込まれた渡辺竜王(0勝3敗)が積極的な姿勢を見せていることが伺えます。
 普通、人間は追い込まれるとネガティブな気持ちになります。どちらかというと主体的な気持ちにならず、相手にあわせたいと思うのではないでしょうか。また、ネガティブなときはいいアイデアも浮かびづらいと思います。しかし、渡辺竜王は積極的な、しかも非常に斬新な構えを作りました。追い込まれたときほど積極的にしてみる、というのは勝負術の1つです。それにしても、このような大きな勝負で、しかも3連敗し、その内容も良くない中での決断です。渡辺竜王は将棋ファンを大事にしますので、余計に「今度こそはいい将棋を見せたい」と思っているはずです。そんな中で、簡単に負けてしまってもおかしくないような構えをつくったのです。
 ひげめがねは、渡辺竜王に精神的な強さ、一流としての自負を感じずにはいられませんでした。

【今回の教訓】
・追い込まれたときほど、その人の精神力、もっといえば人間力が発揮される。
・逆境のときほど積極的にしてみるのがよさそうだ。

【そして、ひげめがねの教訓】
・逆境のときに積極的になれない凡人は諦めてみる。それにより新しい道も開けることもあるかも。

 諦めたら試合終了なのですが、凡人の人生は何度諦めても次の試合があるものです。


 ちなみにトラックバックってどうやって承認してもらうのですか?
http://blog.goo.ne.jp/tbinterface/62feef3135d68f246488bb53d4daabeb/57

2008年11月28日金曜日

手損、総力戦、そして紙一重の差

 竜王戦第4局は、相がかりのでだしから、

 先手羽生名人より角交換、1手損
 銀を3筋から5筋にひきつけて2手損

ということで都合先手の3手損。
 しかし、手損をしても引き換えに守りを固める(と同時に相手玉が薄くなるのを見越している)という効果で形勢はいい勝負なのですね。




 渡辺竜王の覚悟を感じたのは△8八歩の局面。
 8八に入城せず7九に玉がいるのは、手損をしたからとも考えられる。ということは手損をして銀をひきつけてきた羽生名人の構想を、渡辺竜王が認めたことになる。
 これは悔しい。私が後手だったら絶対に指せない(まあ私は6級ですが)。
 しかし、本来の玉を固める竜王スタイルではなく、バルタン星人(すばらしいネーミングセンス)の構えから攻めを重視したところから、今回はいつもと違うと感じさせるものがあった。駒の勢いを重視したということが結果的に功を奏したように思われる。




 そして、私が最後にリアルタイムで見た局面が第2図。ここで△4三玉!の顔面受け。 「勝ったら勝着、負けたら敗着」という手である。しかし、総力戦で全部の駒を使って攻め、受ける、というバルタン星人戦略からいうと、理にかなった手である。おそらく竜王は、勝つには入玉しかない、と感覚的に悟っていたのではなかろうか。

 第3図。ここで羽生名人は最後の歩を使った。この歩は、△8八歩と打ってもらって得た歩である。 ということは、「手損で一歩稼いだが、それでも一歩足りなかった」というくらい紙一重の差だったということだろう。 久々に「リアルタイムでなく後で見た将棋」で興奮させていただきました。

一流の証明&安西先生

 昨日の将棋竜王戦は衝撃的であった。
 あきら魔王の玉がほとんどつかまりそうな場面から、王様が単騎でかけずりはいずり逃げ回り、綱渡りの状態から逃げ切ってしまった。多くのプロ棋士が、羽生竜王、永世七冠誕生と思っていただけに(あきら魔王も負けと観念したらしい)観戦した人たちは余韻に浸れたのではないか(ちなみに私はそのとき会議中でした涙)。
 しかも、羽生勝利目前→逆転と見られていた形勢も、実はずっと難しく、どちらが勝ってもおかしくないような状況が続いていたようだ。最後は本当に奇跡的にあきら玉はつかまらなかったのだが、それも羽生氏がつかまえ損ねた(ミスをした)のではなかったことが判明。あきら魔王は実力だけでなく運をも兼ね備えた、真に一流の勝負師であることを証明したと思う。
 これで、1勝3敗。ここから逆転防衛できるとは到底思えないが、とにもかくにも1勝返したのは今後の彼の将棋人生にプラスに働くに違いない。
 ところで、あきら魔王は19歳にて、できちゃった婚というひげにとっては衝撃的なことがあったのだが、その嫁さんのブログがすばらしかった。

http://inaw.exblog.jp/7687036/
絵は嫁さんが描いたのだろうか?

 ひげはあきらめっぱなしなので試合終了しっぱなしだが、生きている限り何度もいろいろなことに挑戦できる。ホントに試合終了するのは、生きるのをあきらめたときなのでしょうね。

絶対に負けられない戦いがここにある 2008年11月23日

 諸事情あり、ひげめがねは来月より部署移動となります。
 人生は勝ち負けではないとかいう人がいて、その言葉はありがたいのですが、事実上の敗北であります。
 22歳より4年間教師をしていましたが、その時代に中学校の担任をおろされて以来この10年、ひげの人生は敗北に次ぐ敗北であります。人間として致命的な欠陥があるのではないかと思うのですが、それが何なのか理解できません。
 それをこれからの人生の中で見つけていくのが、ひげの使命なのかもしれません。

 というようなことが書けるようになったのは回復したからで、8~9月は、本気で出家しようと考えたのですが、「お前のような掃除とかできない人間は出家などできない」と痛い事実を親に言われ、思いとどまったというくらいです。ま、出家しなくても人生は修行ですけどね。
 現在は、だいぶポジティブになってきたのでご心配なく。

 さて、今日の日記のタイトルは、テレビ朝日のアナウンサーが日本代表の試合でよく使うフレーズなのだが、負けっぱなしのひげには信じられない (笑)。ちなみに今までの日本代表の中で「絶対に負けられない戦い」というのはどのくらいあったのだろうか?負けてはいけない試合、負けて本当にショックだった試合というのは、あのドーハの悲劇以来ないのではないか、とひげは個人的に思っている。何でもかんでも勝ち負けに結び付けようというのは、マスコミとひげの共通する悪い癖だ。
 では、本当に負けられない勝負というのはどういうものなのだろう。
 身近にあったことで私がほとんど唯一思いつくのは、将棋の瀬川晶司さんが受験したプロ試験。人生を賭けた勝負を生で見られた(第1局は紀伊国屋ホールで行われたのです)のはひげにとって貴重な財産だ。なぜ負けられない勝負だったのかは、彼の著書に詳しい。
『泣き虫しょったんの奇跡』
 タイトルで買う気が失せるが(笑)。


 で、おそらくそれに近い戦いが今週ある。
将棋竜王戦
http://www.yomiuri.co.jp/igoshougi/ryuoh/
 相変わらず羽生センセーは強くて簡単に3連勝。
 あきら魔王は絶不調。前局終了後は、誰にも知られないようにひっそりと平泉からその夜に帰京したとの由。その事実からも精神的に相当ショックを受けていることがわかる。
 もうタイトルの行方は99%決まったようなものであるが、第4局はあきら魔王にとって絶対に負けられない戦いである。
 ちなみに羽生センセーにも18年前、同じような状況(3連敗)があった。しかし、第4局は苦しみに苦しみぬいて当時の谷川竜王から勝ちをもぎ取った。結局1勝4敗で羽生氏はタイトルを奪取されたのだが、「その1勝が自分にとって大きかった」というようなことは羽生センセーはインタビューでおっしゃっていた。というわけで、逆の立場の羽生センセーはあきら魔王を叩き潰すために、全力で勝ちに来るだろう。

 こういう逆境の中で、天才はこの状況をいかに克服しようとするのか?これは一見の価値がある。
 もしあっさりあきら魔王が負けたら、それは天才ではなかったということで。